住宅メーカーが主力の企業が本格参入
幸いにして(かどうか)玄関のすぐ脇に仕事部屋があり、一年中ドアを開けっ放しにしているために、夫と子どもたちは出かけるときと帰宅したときに私の顔をどうしても見なければならない。
だが、帰宅時に私が不在だったら、お互い家にいるのかいないのかさえわからない。帰宅してすぐに仕事部屋に入って仕事をしていると、携帯に子どもたちから電話がかかってくる。
「ママ、何時に帰ってくる?今日の夕飯はどうなるの?」と聞かれ、「いま家にいるよ」というと「なんだ、いたの。なら早くそういってよ」という冗談のような話もしょっちゅうだ。
子ども部屋は冬寒く夏暑く、さほど快適な空間でないためかどうか、子どもたちはわりによくリビングにおりてくる。食卓で勉強したり本を読むことも多い。
休日には夫がリビングを占拠する。そして私も気が向くとリビングでバカ話をしている。
だが家族全員が一人になってこもれる場所があるからこそ、リビングに出ていく気になるのではないか。Nさんの家を取材し、私自身の家をかえりみて、親子や夫婦という家族の役割を離れ、それぞれが個人に戻るときの空間の取り方が、いま問題とされているのではないかと考えた。
Nさんの家はご両親も満足して快適にすごしていらっしゃるとのこと。ただ「十年後はどうなっているのか。
それを計算しないでつくってしまったかなとも思いますね」とRさん。高齢になるご両親。
お子さんの成長と独立。家族の変化に「お互いの気配を感じあう」がどう対応していくのか、興味深い。
Nさんの家求めているのは「空気」Nさん宅は「気配は感じながらも、独立した二世帯住宅」だったが、個室をもうけずに家全体がワンルームのような空間で、三世代が気持ちよく暮らせる家を建てた人もいる。Yさんは幼い娘と二人で杉並のマンションで暮らしていた。
子どもを保育園に預けて会社勤めをしていたが、残業も多く休日出勤や出張もある。保育時間だけで対応できなくなると、実家のお母さんの助けをあおいでいた。
だが実家のある埼玉までは一時間以上かかって、娘を預けるにはいささか遠い。いっそのこと同居しようではないか、という声が双方からあがったのが一九九七年。
阪神大震災のあとでマンションに住むのは怖かった。また親にはもう一生引っ越しをしなくてすむ“終の住処”を用意したい、ということと、ご両親が庭いじりをしたいという希望を持っていたので、一戸建てに住むことにすんなりと全員が同意した。
ちなみにYさんはずっとマンション暮らしで、生まれてから一度も一戸建てに住んだことがなかった。「だからはじめは広さの点でとまどいました。
土地と家の広さのバランスさえもわからなかったんですよ」。そこで雑誌や本で研究を重ね、資金プランがなんとか立ちそうだとわかった時点で、家探しを開始する。
一九九八年、Yさん三十三歳のときだ。「散歩できる家」を設計する建築家との出会い場所はなじみのある杉並に決めた。
また両親と自分たち親子が住むには最低でも二十五坪は必要だし、予算を考えると三十坪は超えられないと広さの見当もつけた。土地だけ、建築条件付の土地、建売住宅、中古住宅、と四つの選択肢があることも探しているうちにしだいにわかってきた。
そしてYさんは半年間で三十軒ほどの物件を見た結果、土地だけを購入して建築家に設計を依頼して家を建てることを決意する。「建築条件付という物件の間取り参考例や建売住宅を見て、私たちが頭に思い描いている家とは根本的にちがうと気づきました。
またハウスメーカーの家の○LDKという間取りの取り方にもどこか違和感がありましたね。限られた予算と広さの中で、何を優先させていくかを考えると、私たちの場合は個室の優先順位が低かった。
プライバシーを確保するための個室やお客さんが呼べるような広いリビング、子ども部屋、書斎といった部屋よりも、広々と気持ちよいトイレとバスルーム、キッチンを含めた食事のスペース、洗濯物がよく乾く風通しのよい場所、窓から見える景色、そういうものがほしかったんです。私たちが求めているものは、たぶんハウスメーカーの家や建売住宅にはないだろうと予想がつきました。
だから私のいっていることを理解してくれる建築家に建ててもらうしかない、と探し方の方向を定めました」。建築家に設計を依頼する、と一口にいっても、建築家と施主の出会い方はさまざまである。
Yさんの場合は雑誌がきっかけだった。雑誌の『C』に掲載されていたKさんという三十代の建築家が設計した自宅の写真を見たとき、Yさんにはピンとくるものがあり、Kさんの事務所に電話をかけた。
自分と同世代の女性であるということと、写真に写っていたシンプルながら楽しそうな空間の家が気に入ったからだ。Kさんの自宅を一家で訪れたYさんは内部を見せてもらい、Kさんと話し合った。
そして設計を依頼することを決めた。「Kさんの家でとくに気に入ったのはキッチンかな。
棚やカウンターから流しまで大工さんの手づくりで、ダイニングと違和感なくつながっているところがよかった。キッチンに立つと部屋全体が見わたせるから、きっと気持ちよく家事ができるだろうと想像できました。
もう一つ、トイレのスペースをケチっていなかったことは大きかったですね。また浴室の天井に桧が張ってあって、いい香りがしているんです。
こういう贅沢の仕方はいいと両親と私で感心しました。トイレやお風呂といった生理的欲求を満たす場所にこだわって仕事をしている点に共感して、この人にならお願いしたいと思ったんです」。
Yさんはこまごまと仕切らない広々とした空間を望んでいた。だから、対面式であってもとかく居室と別空間になりがちなキッチンを、うまく部屋全体の中に組み込んでいたKさんの設計に惹かれた。
Kさんは「自分の設計スタイルはあるけれども、施主の希望に柔軟に対応する適応力のある建築家」をめざしている。作風はとてもシンプル。
風や光、周囲の自然をうまく屋内に取り入れる工夫をこらしているのが特徴だ。「家の中にいながら楽しく散歩できるような家」を理想としている。
その理想を実現したKさんの自宅は、ご両親との二世帯住宅だ。Yさん一家は、Kさんのご両親の家が、将来足腰が弱くなっても、車椅子で使用できるようにトイレがつくってあったり、お風呂に段差がなかったり、寝室近くにトイレがあるといった配慮にも感激したとか。
Kさん夫妻の家は二階にある。階段をのぼっていくとウッドデッキの上に家がにょっきりと建っている、という印象だ。
玄関がなく、ウッドデッキに靴を脱いで部屋に直接入る形。寝室にしている和室が、リビングやお風呂、キッチンがある建物と離れて独立して建っている。
二つの建物の間には屋根がない。だがウッドデッキも含めてすべて段差がなく、同一平面上にあるためか、別の空間という気がしない。
リビングの全面ガラス窓からウッドデッキの向こうにある和室を望むと、とても広く感じる。雨が降ると寝室まで傘をさして移動しなくてはならないが、それも楽しそう。
私も両方の部屋を行き来して、Kさんのいう“散歩”の気分を味わった。そしてYさんはこの開放感に惹かれたのではないかと想像した。
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